日本動物実験代替法学会 (第9回大会ポスター発表)

医用材料の細胞毒性試験における、検体抽出条件及び試験方法による毒性結果の差異について
(株)八光電機製作所 メディカル生産本部 技術部 生化学研究課

[目的]

 医療用具及び医用材料の生物学的試験のガイドラインが今年7月に正式に定められたが、その内容の細胞毒性試験は全てに必須の試験となっており、医用材料の安全性を考察する上で重要な位置付けとされている。その細胞毒性試験は使用細胞から培地、試験方法など細部にわたり詳細に定められているが、その中で培地については、血清を加えた培地が定められている。血清は培養細胞の増殖等に深く関わっているが、毒性試験等において不確実な要素ではある。ガイドラインにおいて、規定外の培地を用いての試験及び異なる試験法を用いた試験を行うことは、可能ではあるが、その試験の正当性は、標準材料を試験した結果が、定められた試験と同等以上の感度及び再現性が確認されうるかどうかで判断される。生物由来の血清を抽出時に用いることは、生体により近い条件で試験を行うことであり、非常に重要ではあるが、動物由来の物を少なくする意味に於いても、無血清培地での試験が可能であるかを探りながら、医用材料の細胞毒性試験(特に抽出条件)における血清の存在の重要性を明らかにする目的で、無血清培地と血清入り培地との毒性試験結果の比較を行った。また、試験方法については、コロニー法が定め

[材料と方法]

 PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)チューブ、PVC(ポリ塩化ビニル)チューブ、PU(ポリウレタン)チューブ、ハンダ(Sn-Pb)及び陰性材料(和光組織培養用プラスチックシート)を試験材料とし、標準物質 Zincdiethylditiocarbamate (ZDEC), zinc dibutylditiocarbamate(ZDBC) の細胞毒性試験も同時に行った。今回ガイドラインに定められた標準材料(0.1%ZDEC含有ポリウレタンフィルム及び0.25%ZDBC含有ポリウレタンフィルム)は入手出来なかった。(来年4月にならないと販売されないとのこと)試料を細切、滅菌し試料1gに対し、10mlの割合で培養液を加え、37°CO2インキュベーター内で24時間抽出する。抽出する培養液は・MEM+FBS5%(MO5)培地・MEM(血清なし)培地、・ASF301培地(味の素)の3種類を用いた。抽出後、血清無しMEM培地には、5%FBSを加える。各抽出液を適当な倍率に希釈して、V79細胞を100個植え込んだ60mmシャーレに加え、コロニー法にて細胞毒性試験を行った。更に、PVCについては、抽出培養液の血清濃度を0%、1%、3%、5%でそれぞれ抽出し、抽出液血清濃度と細胞毒性との相関性についても調べた。また、MO5培地での抽出液については、96ウエルマイクロプレートに細胞植え込み数が4×103cells/well及び1×103cells/wellの2種類を用意し、24時間37°CO2インキュベーターで培養後、それぞれについて検体処理時間を48時間、72時間、96時間とし、ニュートラルレッド法で試験を

[結果および考察]

 今回試験した材料のうち、PTFEおよびPUは低毒性であったため、抽出培地による毒性結果の差は表れなかったが(Fig.1,Fig.3)、PVCについては明らかに血清入りMO5培地で抽出したものの方が他に比べ、強い細胞毒性を示した。(Fig.2)。また、ハンダについては、無血清培地(ASF301)で抽出、培養したものが他に比べて極端に強い毒性を示した。(Fig.4)。更に、抽出培養液の血清濃度別に細胞毒性を比較した試験に於いては、血清濃度が高くなるにしたっがて、細胞毒性が強くなるという結果が得られた(Fig.5)。これは、材料抽出条件における血清の存在が、大変重要であることを示しており、特に高分子材料のように、有機系のモノマーや添加物が存在する材料については、それらの有毒物質が溶出するためには油分を含む血清の存在がキーポイントになることが推測出来る。一方、標準物質を用いてMEM+5%FBSとASF301における細胞毒性を比較したところ、ASF301培地の方が、LD50値にいおいて、2倍程度感受性が高い結果となった(Fig.6,Fig.7)が、ハンダの試験結果では、2つの培養液における細胞毒性の差は、その結果以上であった。この結果を考察すると、金属材料においては、溶出した金属

 また、ニュートラルレッド法は、コロニー法とほぼ同等の結果が得られたと判断出来るが(Fig.8〜Fig.13)、植え込み細胞数が少ないとばらつきが目立ち、植え込み細胞数が多すぎたり、処理時間が長くなれば毒性が分かりにくくなる傾向があり、最適な条件で行う必要があると考えられる。

 いずれにしろ、標準材料を用いた試験に於いて再度考察が必要であるが、試験材料や使用細胞、培養液等それぞれの特徴を理解した上で細胞毒性結果を判断、考察することが重要となる。

(今回用いた試験材料はあくまで試験用であり、実際に医療用具に使われている材料とは限りません。)